PMOは広範な範囲をカバーしているので、もはやアイデンティ・クライシスに陥っている
「PMOとは。PMOの役割や組織ごとの違いを解説。」でさまざまなPMOの役割があることを説明したけれども、ちょっとわかりづらかったんじゃないかと反省しています。
正直に書きますと、PMOは組織や扱う人によって役割が異なってきますし、プロジェクト一つとってもさまざまなアプローチがあるので、アイデンテティ・クライシス(Identity Crisis)に陥っていると言っても過言ではないと思います。
扱う人が変われば、PMOとは何かという説明も変わってきます。PMIのPMBOK「A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Seventh Edition and The Standard for Project Management」でもPMOの説明をしていますが、あまり紙面を割いていません。
Pひとつとっても、プロジェクト(Project)、プログラム(Program)、ポートフォリオ(Portfolio)のどれにでも当てはめることができるので、結構曖昧な定義にしてしまうことも可能です笑
デロイト(Deloitte)に至っては、「PMOの役割は曖昧なので、PMOの必要性は認識されているけれども、不完全な遂行によってその有効性が制限されてしまう。なので、PMOではなく、Results Management Office(RMO)に変えてしまえ」と言っています(デロイト、2009年、『PMOver: Transforming the Program Management Office into Results Management Office』)。良い提案だと思います。
まあ、それでも様々なデータに基づいた分類分けはできると思うので、ここではそこを見ていきたいと思います。
PMOの5種類の機能(PMOフレームワークから)
では、実際に5つの種類のPMOを見てみます。5つとは、
- 組織のUnitに関連するPMO
Organizational PMO / Business Unit PMO / Divisional PMO / Departmental PMO
ビジネスユニットに対して、プロジェクトに関連したサービスを提供する機能を持つPMO - プロジェクトサポートとしてのPMO(PSO)
Project Support/Services/Control Office or PMO
プロジェクト(プログラム・ポートフォリオ)の管理を継続的にサポートするための有効なプロセスを提供するPMO - 組織や戦略、ポートフォリオに関連するPMO(EPMO)
Enterprise/Organization-wide/Strategic/Corporate/Portfolio/Global PMO
ハイレベルなPMOで、プロジェクト・プログラム・ポートフォリオと戦略の調整等おこないます - センターオブエクセレンス(CoE)
Center of Excellence / Center of Competency
方法論・標準・ツールなどを組織に持たせ、プロジェクトの作業をサポートしていくPMO - 特定のプロジェクトに特化したPMO
Project-Specific PMO / Project Office / Program Office
一時的な組織て、特定のプロジェクトをサポートするためのPMO
この中で、PMOの価値を最も認識されやすいのは、5つ目の特定のプロジェクトに特化したPMOです。確かにプロジェクトを直接達成することで、プロジェクトマネジメントの価値を実感と伴ってわかりやすいと感じられると多いと思います。
しかし、実際に会社にとってより効果的なPMOの使い方は、どちらかというと3つ目のより組織の上流に関わり、戦略やポートフォリオに関わるPMOです。よくEPMO(Enterprise PMO)と呼んだりします。
引用元:BCG & PMI、2013、『Strategic Initiative Management: The PMO Imerative』
では、なぜこのEPMOが効果的とされるかというと、EPMOが戦略の遂行/実行により深く関わっていくからです。そしてなぜ戦略の遂行・実行が重要かと言いますと、戦略が無事に遂行できたかどうかの具合と財務パフォーマンスは相関するからです(BCG & PMI、2013、『Strategic Initiative Management: The PMO Imerative』)。
PMOの階層構造
上記は機能別に見てみましたが、別の観点からPMOを見てみると、下記のような構造になります。
とても単純化していますが、上からC-Suite(いわゆるCEO、COO、CTOなどのCがつく役職。)、EPMO、PPMO、PgMO、PMO、PSOです。C-Suiteを入れたのは、より戦略とPMOとの関わり度合いを理解を進めたいからです。
よりハイレベルになると、それだけ多くの要素を考慮に入れる必要があり、複雑性が増します。またその考慮に入れるべきそれぞれの要素は流動的で、組織それに伴って変わってきますので、柔軟な頭で考えられる必要があります。
新興産業では、その変化がより早い傾向にあり機動力が試されますし、成熟した産業ではゆっくりと市場が動くため、それぞれ市場の動きに適応した形での推進が必要です。
EPMOの役割
C-Suiteは戦略立案を行いますが、実行する部隊が当然のことながらいて、会社全体としてその戦略遂行を成功に導く役割がEPMOです。そして、前述した通り、戦略をどれだけ成功に導くかが財務パフォーマンスに大きく影響してきます。
役割としては、
- 会社のプロジェクト、プログラム、ポートフォリオが会社の戦略に沿っていること、会社の標準、方法論、ポリシーなどに沿った形で遂行されていることを確認する。
- さまざまなメトリックスやツール、プロセスを標準化させる。
- プロジェクトマネジメントのプロセスを提起し、コントロールする
- 進捗をモニタリングし、マネジメントにレポーティングする
- モニタリングだけでなく、しっかりと評価をし、その結果をレポーティングする。
などが挙げられます。
PPMO、PgMO、PMOの役割
その次はProject Portfolio Management Office(PPMO)ですが、定義によってはEPMOと同様に扱われることがあります。ポートフォリオというだけあり、プロジェクト・プログラム・BAU(Business As Usual)を管理していきます。PgMOやPMOはだんだん下流の概念となります。
ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトとそれぞれのレベルで、計画・分析・評価・標準化・レポーティング・ツール選定など行い、組織体にあったプロセスの最適化や、より効果的な方法論を取り入れてより成熟させていきます。
PSOの役割
最後にPSOですが、主にサポート業務に当たります。みる人によってはAdministratorであったり、スケジュールなどの調整役だったり、議事録をとったりですとかプロジェクトマネジメントで必要な機能を代わりに行うなどします。
PSOのように下流に来るほど、とてもシンプルな役割になります。上述した通り、新興産業などの分野では動きが早いため、単純に作業をこなすだけだとすぐにキャパシティオーバーになる可能性があります。
そのため、PMOなどより標準化を進めるオフィスやチームと協力をして、先手先手で状況に即した運用を行う必要があります。
PMOで要求される能力とパフォーマンス
総じてさまざまな知識や、スキルが要求され、PMOのパフォーマンスに大きく関わってきます。パフォーマンスの高いPMOはパフォーマンスの低いPMOと比べると、3倍以上もの人が潜在的な価値想像に貢献できると気づきます。
PMIはパフォーマンスの高いPMOが次の3つのエリアの特定の能力を示していると導き出しました。
- 組織のプロジェクトマネジメント文化を創り上げること
- PMOのパフォーマンスを継続的に評価すること
- ナレッジ管理を通してや変更管理を通して改善させ、進化させること
1. 組織のプロジェクトマネジメント文化を創り上げること
最も効果的な組織は、プロジェクトマネジメントの必要性を認識するだけでなく、PMOに適切な力(マネジメント権限、サポート、ツール)を組織の中で持たせていることがわかっています。経営層のトップがPMOを理解し、サポートすることが不可欠です。
プロジェクトマネジメントの文化を作るにあたって、PMOは明確なディレクション、ガバナンス、サポートが必要です。また、「スキルをもった人」そして「トップマネジメント(経営層のトップ)にアクセス」できなければなりません。
プロジェクト文化の要はスキルをもった人員ですが、スキルと同時に適切な人数の人が成功要因に関わってきます。
2. PMOのパフォーマンスを継続的に評価すること
PMOはそのプロジェクトのゴールに向かって動いていることはとても重要ですが、スコープが変わったり新しい優先順位づけが加わったりとしばしば戦略から遠のいてしまうことがあります。
そのため、パフォーマンスを評価し、自己批判の態度を持つこと、組織の全体的な成功に向けて作業を評価することが重要です。
主にパフォーマンスの良いPMOは下記のようなことを評価しているようです。
- プロジェクトオーナーのフィードバック評価を行うこと。
- 他のステークホルダーからフィードバックをもらうこと。
- 顧客からフィードバックをもらうこと。
3. ナレッジ管理や変更管理を通して、PMOを進化・改善する
パフォーマンスが高いPMOは一日にしてならずで、やはり継続的に学びが必要です。特にフィードバックをもらうことがとても重要で、戦略を立案するところと継続的にフィードバックを送り合うというのが鍵のようです。
全ての戦略の変更はプロジェクトやプログラムを通して起こります。パフォーマンスの高いPMOは学ぶことやプロジェクトやプログラムへのアプローチをどんどん改善しています。
戦略の実行の成功のためには、組織の変更管理が要求されます。変更管理のスキルが不足していると、戦略を遂行する上でとても大きな障害になります。そしてパフォーマンスの高いPMOはコミュニケーションや、ステークホルダーを満足させることを通して変更管理を確実なものにしています。
また、パフォーマンスの高いPMOは、分析や経験のシェアをすることで、組織におけるPMOの価値が上がる(改善する)ことに成功しています。そして現在から未来に向けて組織をドライブしていくことも重要な成功要因です。
おすすめの本
いくつかの観点でPMOを説明してきましたが、少しでも役に立てば幸いです。最後に、おすすめの書籍を紹介して記事を終了したいと思います。
プロジェクトマネジメント:PMBOK(PMPの教本)
PMOという言葉をPMIが作ったPMBOKの中でよく説明しています。第7版は英語しかありませんが、6版であれば日本語があります(両方リンクとして貼っておきます)。(2021年10月10日現在)この記事もPMBOKを多く引用しています。
また、プロジェクトマネジメントの資格(PMP)の教本としても有名です。
プロジェクトマネジメント:PRINCE2の教本
「国連で推奨されているプロジェクトマネジメントフレームワーク「PRINCE2」」や「プロジェクトマネジメントの資格勉強に購入検討したいテキスト本を紹介」でも紹介しているのですが、英国出身のプロジェクトマネジメントです。
より組織を意識したプロジェクトマネジメントになっており、どのフェーズで何の情報が書かれたドキュメントが必要かなどうまくまとまっており、体系的にプロジェクトマネジメントを学べます。
また、チェックリストやドキュメント作成をする際にとても役に立ちますので、辞書をおいておくように机においておくととても役に立ちます。(困ったときにパラーっと開いてチェックするみたいなイメージ)。
現在は日本語の本が売り切れになっていますが、英語と日本語の本を紹介します。
プロジェクトマネジメント:プロジェクトマネジメントツールボックス
理論や体系に基づいてのプロジェクトマネジメントは理解した。では実践的に使えるものはないのか?と思った時に役に立つ本です。
英語版の最新本と日本語の本を紹介します。
日本語の本は少し古いのですが、プロジェクトマネジメントの本としてとても素晴らしい本です。絶版なのか、出回っている本がとても限られています。とてもおすすめですし、在庫がなくなる前に購入することを強くおすすめします!僕は1万円弱で買ったのですが、今チェックしたらとても安いのが出回ってますね!
英語版は、日本語版にないモデルや方法論もあるので読むのにとても良いです。英語が読める人はこちらもぜひどうぞ!
ポートフォリオマネジメント:Portfolioマネジメントの本
個人的に、プロジェクトマネジメントを理解したら、プログラムマネジメントやポートフォリオマネジメントの概念を理解するのが重要だと思っています。
プログラムマネジメントのことを理解するのも大事ですが、プログラムマネジメントをスキップしてポートフォリオマネジメントを理解した方が有益なのではないかなと思っています。
そこで、Axelosが出している、Management of Portfolios (MoP)の本を紹介します。
Agile:Scaled Agile Framework(SAFe)の資料
SAFeは「SAFe by SCALED AGILE」のウェブサイトが良くできています。英語なので、英語がわかる人にはいいと思いますし、正直この資料で一旦はいいと思います。
もし日本語で理解したい場合は下記の本があります。Agileを組織的に考えたい人にはとてもいい本になると思います。