プロジェクトとプログラムの差を知っていますか?
この国際機関にいると、プロジェクトという言葉とプログラムという言葉が出てきます。プロジェクトマネジメントやプログラムマネジメントという言葉をよく聞きます。
噂によると、機関によってはプロジェクトをプログラムという意味で、またプログラムをプロジェクトという意味で使うところもあるので、組織によってどのようなコンテキストで言っているのかをしっかりと理解する必要があると思います。
ここでは二つの資格「PRINCE2」(プロジェクトマネジメントの資格)と「MSP」(プログラムマネジメントの資格)の教材を用いて解説したいと思います。
一刻も早くこの差を知りたい方は、まとめまで読み飛ばしてください。
プログラムの定義は戦略を達成するためのプロジェクトの集合体
まずはプログラムの定義を見て見たいと思います。このプログラムの定義はMSPというプログラムマネジメント資格の教材に書いていある定義です。
Programme プログラム
… as a temporary, flexible organization created to coordinate, direct and oversee the implementation of a set of related projects and activities in order to deliver outcomes and benefits related to the organization’s strategic objectives.
組織の戦略目標に関連する成果やベネフィットを提供するために、一連の関連プロジェクトや活動の実施を調整、指揮、監督するために作成された一時的で柔軟な組織
出典:「Managing Successful Programs 2011」
プログラムで重要な要素は「組織の戦略目標」です。プログラムは、確固とした戦略目標があり、その成果をあげるために、いくつものプロジェクトや関連するアクティビティ(活動)を調整、指揮、監督するために作られた一時的で柔軟な組織です。
プログラムはただの大きなプロジェクトを指すわけではありません。幾つものプロジェクトによって成り立ちます。
そしてプログラムはただのプロジェクトのまとまりというわけではありません。それぞれのプロジェクトによってもたらされるベネフィットが共通のビジョンに貢献することが期待されています。
プロジェクトの定義も見てみましょう
プロジェクトに関しては「そもそもプロジェクトとはなんですか?プロジェクトマネジメント資格「PRINCE2」の観点から見てみる」の記事にも書いていますが、ここでも一度確認して見たいと思います。
*PRINCE2とはイギリス発祥のプロジェクトマネジメントフレームワーク(資格)で、国連事務局や国連プロジェクトサービス機関等でよく使われるプロジェクトフレームワークです。
A project is a temporary organization that is created for the purpose of delivering one or more business products according to an agreed Business Case.
プロジェクトとは「合意された一つ若しくはそれ以上のビジネスケースを実行・達成するために作られた一時的な団体のこと」と
出典:「Managing Successful Projects with PRINCE2」
プログラムもプロジェクトも共通しているのは「一時的な組織」であること。ただ、プログラムの方がより戦略やビジョンに関わるよりハイレベルなものである、一方でプロジェクトはその構成要件の一つになり、プロジェクトによって想定される成果の集合体が、プログラムの戦略やビジョンに成果をもたらします。
関連記事 >> 「そもそもプロジェクトとはなんですか?プロジェクトマネジメント資格「PRINCE2」の観点から見てみる」
関連記事 >> 「国連で推奨されているプロジェクトマネジメントフレームワーク「PRINCE2」」
成果物(Output)、結果(Outcome)、そして利益(Benefit)
PRINCE2のプロジェクトマネジメントにおいて、三つのことがどのように関係するかを説明します。その三つとは、成果物(Output)、結果(Outcome)、利益(Benefit)です。
成果物(Output)をプロジェクトのスペシャリストによって生み出されたプロダクトをさします。英語でDeliverablesと表現するプロジェクトマネージャーもいます。
結果(Outcome)は成果物によってもたらされる変化の結果をさします。
利益(Benefit)は、1つまたは複数の利害関係者によって、利点として認識される結果から生じる測定可能な改善のとをさします。
これらはそれぞれプロジェクトとプログラムでどのように扱うのでしょうか?
プロジェクトは成果物(Output)を扱い、プログラムは結果(Outcome)を扱う
プロジェクトはプロジェクトを通して生み出される成果物が焦点です。そのため、成果物によってもたらされる「結果」をプロジェクト中に受けることはまれです(プロジェクトによっては、その結果を享受するのを待ってから閉じる組織もあります)。
プログラムは、結果(Outcome)に取り組みます。この説明を初めてMSPの教材で見たときは、国連でよく使われる成果重視型マネジメント(Result Based Management もしくは RBM)を思い浮かべました。
関連記事 >> 「国連で使われる成果重視型マネジメント(RBM)について」
MSP(プログラムマネジメント)とPRINCE2(プロジェクトマネジメント)のOutcomeの違いをみてみると、わずかですがその結果に対する考え方の違いが読み取れます。
Outcome 結果
… the result of change, normally affecting real-world behavior and/or circumstances; the manifestation of part or all of the new state conceived in the blueprint.
実際の行動や状況に影響を及ぼす変化の結果。 完成設計図で想起された新しい状態の一部または全部の現れ。
出典:「Managing Successful Programs 2011」
An outcome is the result of the change derived from using the project’s outputs
プロジェクトの成果物を使うことによってもたらされる変化の結果のこと。
出典:「Managing Successful Projects with PRINCE2」
プログラムマネジメントの方がより大きなスケールで結果を観察しています。
プロジェクトとプログラムのまとめ
プロジェクト
- 始まりと終わりが明確
- 成果物(Output)が予め定義されている
- 成果物における開発の工程(イニシエーション、デリバリー、ハンドオーバー)が比較的明確に定められている
- 比較的短期間(月単位)
- ベネフィットは最後に来る
プログラム
- より戦略的な想定されている目標が決まっている
- あまり明確にその過程が定められていない
- 不確定要素をうまくマネジメントするようにできている
- 複雑さ、リスク、優先度の競合等が起こる
- 文化の変化や複雑な相互関係
- 比較的長期間(年単位)
- ベネフィットはプログラム期間中もしくはその後にくる
PRINE2やMSPの資格に興味がある方は?
このブログはもともと、「国連職員になるには」という記事にもあるように、将来国連職員になりたい方に向けて情報を提供しています。PRINCE2は国連事務局や国連プロジェクトサービス機関とうの機関で積極的に利用されている(推奨されている)プロジェクトマネジメントフレームワークです。
関連記事 >> 「国連職員になるには」
PRINCE2は資格があり、国連職員になる上でプロジェクトに関わる人にとっては書類でアピールするのに役立つ資格です。PRINCE2とは何か、資格の種類や内容、資格試験の形式は、合格点、筆者が資格を取得した際のかかった時間など「国連で推奨されているプロジェクトマネジメントフレームワーク「PRINCE2」」に書いています。ご覧になっていただければと思います。
関連記事 >> 「国連で推奨されているプロジェクトマネジメントフレームワーク「PRINCE2」」
プロジェクトマネジメントに関わる方にオススメの本
なお、プロジェクトマネジメントに関わる方には下記のPRINCE2の本をお勧めしています。なぜオススメかというと、プロジェクトマネジメントに関わる必要な情報が網羅されており、用意するべき書類や、困った時にどうしたらいいのか、すぐに参考にできる箇所がたくさんあるからです。
特にプロジェクトマネジメントの書類作成に何から手をつけようか、何を書いたらいいか迷うことが多い方にお勧めします。僕も国連でよくプロジェクトマネジメントの資料を作るのですが、この本(英語版)を使ってパラパラとめくりながら仕事をします。
- 日本語版 ペーパーバック版>> Managing Successful Projects with Prince2 (日本語版) ペーパーバック – 2015/11/30
- 英語版 ペーパーバック版 >> Managing Successful Projects With Prince2 2017 (英語) ペーパーバック – 2017/5/23
- 英語版 Kindle版>> Managing Successful Projects with PRINCE2 2017 Edition 2017 Edition, Kindle版
- Agile 英語版 ペーパーバック版 >> Prince2 Agile (英語) ペーパーバック – 2015/6/15
- Agile 英語版 Kindle版 >> PRINCE2 Agile® Kindle版
PRINCE2(Managing Successfull Projects with PRINCE2)は2017年から新しくなり、PRINCE2 2017というのができました。日本語はまだPRINCE2 2017に対応されていませんが、非常に役に立つと思います。なお、資格取得を考えている方は、ペーパーバック版をお勧めします。Practitioner、Professionalという中級・上級コースはこのペーパーバックの本(テキスト)のみが持ち込み可能です(Agile資格はAgileの本のみ持ち込み可能)。
プログラムマネジメントに関わる方にオススメの本
プログラムマネジメント(MSP)は下記の本(英語のみ)があります。プログラムマネジメントも国際機関のプログラム系の仕事をよくする方は一つ持って置くと良いのではないでしょうか。あって損をすることはないと思います。私も将来に備えて購入しましたが、いろんな気づきがあって面白いです。プロジェクトやプログラムの話しをする時の言葉の選び方で細かなニュアンスを伝えるのに重宝しそうだと思いました。
- Kindle 版 >> Managing Successful Programmes 2011
- ペーパーバック版 >> Managing Successful Programmes 2011
PRINCE2と同様に、資格取得を考えている方はペーパーバック版をお勧めします。
以上、「プロジェクトとプログラムの違いはなんですか? プログラムマネジメント資格「MSP」から見てみる」でした。