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国連とブロックチェーン技術の活用

昨年の9月から国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)に働き始めてから、だんだんと国連におけるブロックチェーン技術のとりくみについて耳にする機会が増えました。一方、IT部門で働きながらも、国連のブロックチェーン技術の活動について全然把握していない現状に危機感を抱き始め、情報収集を始めました。この記事では国連のブロックチェーン技術の取り組みについての一部を紹介いたします。

その1:国連事務局として一番認識されている活動はID2020?

ID2020は「全ての人にIDを」というコンセプトで、「IDがないために自分の出自や本人の証明が出来ないために、医療や教育など基本的なサービスが享受できない障害」を技術で解決しようという試みです。ブロックチェーン技術を使った国連の中でも大きな動きの一つであるといえるでしょう(こちらの日本語の記事がわかりやすいと思います。http://gaiax-blockchain.com/id2020)。

 

ID2020で最低限担保される基準として下記が達成させられなければなりません。

  • Personal: その人固有のIDであること
  • Persistent: 生を授かってから死ぬまで一生涯使えること
  • Portable: どこでも必要な時に使えること
  • Private: その人だけがデータを見たり使ったりする権限を持つこと

2020年までが実験フェーズとして定められており、このIDに使われる最適な技術の検討・実験・選定を行なっています。検討内容に虹彩認証をはじめとした生体認証やブロックチェーン技術が含まれており、実際にID2020の創業メンバーであるアクセンチュアはID2020のプロトタイプを生体認証とブロックチェーン技術を使って開発しています。

アクセンチュアは実際に虹彩認証を使った難民支援取り組みを行なっている

この生体認証システムは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携して2013年から難民にIDを提供する取り組みを行なっています。この取り組みに加えて、ブロックチェーンシステムを組み込むことで、よりセキュアで透明性の高いシステム構築が期待されます。

このブロックチェーン技術はエンタープライズ向けのEthereum(イーサリウム)であるEEA(Enterprise Ethereum Alliance)のプライベートもしくはPermissioned版のブロックチェーンプロトコル使い、マイクロソフトのクラウド上(Azure)に構築されると見られる。

Enterprise Ethereum Alliance(EEA)について

世界最大のオープンソースのブロックチェーンイニシアチブであるEnterprise Ethereum Alliance(EEA)は、Fortune 500企業、ブロックチェーンの新興企業、学者、業界の専門家を共通の目標で結びつけるために設立されました。

専門家は、ブロックチェーン技術を利用してエンタープライズ級のソフトウェアを定義するEthereumプロトコルを学び、構築するために一緒に活動しています。 Ethereumの成熟度と多目的な設計を考えれば、このアライアンスはプライバシー、スケーラビリティ、セキュリティ、性能向上を実現し、大規模なエンタープライズ導入のための主要なソリューションとしてEthereumブロックチェーンを構築するという使命を果たしています。

 

その2:ブロックチェーン技術を使って人身売買にストップ?

国連事務局の管理局、情報通信技術室(OICT)は定期的にUnite Ideasという「技術を使って世界の課題を解決するためのアイディア」を募集しています。2018年に国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)と共同で「ブロックチェーン技術を使ってどうやってモルドバの人身売買に歯止めをかける支援をするか」というお題で世界中からアイディアが集められました。

ざっくりと見てみると、モルドバは以下の課題があります。

  1. 売春および労働の人身売買
  2. 経済的な障害(給料の低さ、警察や裁判官のトレーニングを外国の援助に頼らなければならない等)
  3. 汚職・贈賄

最高賞受賞者のアプローチは的を絞って下記を提案しました。

  1. リスクある若者と生存者用の不変ID開発
  2. 国境検問所や避難所の追跡
  3. 安全な求人情報提供
  4. 生存者と失踪者を探すホットラインプロセス自動化

不変のIDをもつことで、どこかのチェックポイントについた時にIDを示すことができれば、その人を事前に救出できる可能性を高めます。また、人身売買の被害に当たらないためにも、安全な求人情報の提供が不可欠です。このような未然に防ぐシステムを作り、また実際に被害に遭ってからでも、実際にその人がどこにいるのかホットラインプロセスを自動化することによって、捜査の労力を大きく下げることにも期待がされます。

また、受賞者のプレゼンも下記のリンクをご覧ください。

https://docs.google.com/presentation/d/1HvMsexXA2nSsMqK6aXTvoWNaloLLpvLxfWL7LTQOcC0/edit#slide=id.g2cd262a309_0_65 …

こちらも、ID2020と同じようにEthereumネットワーク上に構築するということです。ブロックチェーン技術というとBitcoinが有名ですが、国連が解決したい課題に対してはEthereumの上に構築するのが一番最適ではないかと考えられています。

 

その3:国連のブロックチェーン技術推進に日本人が活躍

「2016年くらいから、こうしたブロックチェーンの考え方は、我々が苦い思いをしてきた巨大な組織的な人道援助にも利用できるのではないかと考え始めた」

先月末、日本で国連プロジェクトサービス機関に勤めている山本芳幸さんが国連機関でのブロックチェーン推進活動についての講演を行いました。

難民支援「暗号通貨基金」も ~効率と透明性を求め国連でブロックチェーン活用が進む【国連機関でのブロックチェーン・プロジェクトからミライの社会を考察する夜】

 国連でブロックチェーンへの取り組みが始まっている。目的は、国連の各機関の事業の透明性と効率を高めることだ。ブロックチェーンを応用した難民支援用のID(身分証明)管理システムや仮想通貨を活用した難民支援基金などの複数の取り組みが進行中である。

山本さんは国連内で積極的にブロックチェーン推進活動をしており、僕も山本さん主催の国連内ブロックチェーン勉強会に参加しています。より多くの情報が得られると同時に、国連職員としてこのブロックチェーン技術の推進は絶対必要だと感じるほど大きなインパクトがある素晴らしい勉強会です。国連において様々なユースケースが想定され、個人的にももっと勉強をしなければと思っています。例えば、国連のブロックチェーン技術の想定活用対象として下記の人たちに役にたつと考えられます。

  1. 移民
  2. 難民、国難避難民
  3. 銀行口座を持たない人々
  4. 強制労働や人身売買
  5. ホームレス

移民や難民に対してはID2020の活動の一環としてどの国に行っても不自由しない(自分の身分を証明できる)自分のIDを持つことができ、強制労働や人身売買に関しては上述のUnite Ideasの受賞者のアイディアのような支援方法があります。銀行口座をもたない人々に対しても、ブロックチェーン技術の得意とするところです。ブロックチェーン技術ネットワークを通して送金等を行うことができます。ホームレスもある意味難民問題に近い性質があり、突然失踪することも珍しくありません。では、この人たちの保護をどうするのか。同じくデジタルIDをもつことで、彼らを保護する可能性を高めることに期待ができるのではないでしょうか。

ブロックチェーン技術(特にEthereum)では政府機能の改善にも期待がもてます。下記は一例です。

  1. 電子投票
  2. 国民デジタルIDシステム
  3. 公共サービス効率向上
  4. 政府管理記録
  5. マネロン防止

例えば、電子投票システムはすでにサービスとして出てきています。horizonstate.com  が安全な投票システムとして、サービスを開始ししています。

また、ブロックチェーン技術の強い点の一つにサプライチェーン技術があります。ニュースにも取り上げられた人道物資の国連職員による不正活動の抑止にも効果があるのではないかと考えられています。

山本さんは、Satoshi Nakamoto(ブロックチェーン技術界では超有名人ですが、謎の人物とされています。ブロックチェーン技術の共同研究を架空名前Satoshi Nakamotoを用いて発表しているという説が有名です)が発表した”Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System “を読むことをお勧めしております。ブロックチェーン技術に興味のある方は、ぜひとも読んで見てください。

https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

 

その4:WFPのブロックチェーン技術を活用した食糧支援

国際連合世界食糧計画(WFP)はブロックチェーン技術(Ethereum)を活用した食糧支援システム「Building Blocks」を開発しています。2016年に作られ、2017年にシリアにて試験的に導入を開始し、10,000人がこのシステムの恩恵を受けます。銀行関連の振込手数料を98%削減、仲介手数料にも大きな節約効果が想定され、難民支援のコストを大幅に削減することが期待できます。この支援により難民がサードパーティに機密データを渡す必要がなく難民のプライバシー問題も改善され、将来的にはデジタルIDおよびサプライチェーン管理への応用も視野に入れています。

Building Blocksは生体認証の一つ虹彩認証を紐付け、難民は瞬きをすることで自分を証明することができます。

http://innovation.wfp.org/project/building-blocks

WFPがブロックチェーンを活用した食糧支援プラットフォーム「Building Blocks」を開発 | Techable(テッカブル)

WFP(国際連合世界食糧計画)では、2016年4月から、ブロックチェーン技術をベースとした独自システム「Building Blocks」の開発に着手。 食糧支援の効率化と支援対象者のプライバシーの保護につなげるのが狙いだ…

 

キーとなるのはイーサリアム(Ethereum)

国連におけるブロックチェーン技術を調べてきましたが、どこもEthereumを導入しています。Ethereumは投機の対象と見られたり、またEthereumのゲームとしても有名ではありますが、国連の支援活動においても大きなポテンシャルがあり、システム構築の柔軟性においても大きなアドバンテージがありそうです。

日本ではブロックチェーン技術に関する情報がとても多く、検索しやすいと思います。また、様々なコースもありますので、一度何かのコースを受講することをお勧めいたします。

私も、今後とも情報収拾をもっと行い、さらに情報提供できればと思います。

亀山 翔大
亀山 翔大
東京都出身。MBA。Project, Program, Portfolio Managementを専門。PMOとして働きつつ、イギリス大学院でサイバーセキュリティを学ぶ。前職である国連にて国連世界ICT戦略遂行、国連グローバルPMO推進。UN KUDOS! Award 2019優勝。プロジェクト(プログラム)マネジメント(PRINCE2/MSP)、サイバーセキュリティ(NIST CSF)等の資格を有する。 プロフィール詳細はこちら

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