「国連報告書の書き方」に関するシリーズ投稿となります。今回は、その第一弾「誰に何の目的で書くか」について述べたいと思います。
国連報告書のあるべき姿
国連には多くの文章が存在します。国連で文章を書くこと自体には多くの目的がありますが、主な目的は情報を提供することであり、事実に基づいたものでなくてはなりません。また、文章は
言葉として簡潔で、明瞭で、シンプルであり、また論理的な構成である必要があります。
国連報告書は様々な国の、様々な背景を持った人が読みます。他の言語に訳される際も、誤謬がないように誰が読んでも「簡潔で」「明瞭で」「シンプルで」「論理的で」あるべきです。
国連報告書を読む読者?
では、国連報告書を読む読者はどんな人でしょう?
一部の読者は加盟国からの代表者ですし、「私たちが住んでいる世界についてもっと知ろう」としている大学生かもしれません。NGO(非政府組織)で働いている方の可能性もあります。そして当然英語が母国語でない人も含まれます。
いろんなバックグランドの人がおり、母国語でない人もいるため、報告書も多様性に配慮した内容でなくてはなりません。
報告書に問題が出てくる原因
国連の報告書は正確さ、明瞭さ、簡潔さ、一貫性を必ずしも達成できているわけではないそうです。そして、主な問題点は下記の点が挙げられます。
- そのレポートの目的が不明瞭であること、また非論理的な文章構造をしていること。
- 読者や聴衆の意識や知識の欠如。
- 不必要な言葉や、説明の繰り返しによる長過ぎる文章。
- 不必要で無関係な画像やグラフ。
- スタイルと論調・格調の問題。
- 一貫性の欠如。
- スペルや文法の間違い。
- 行動指向の結論と勧告の欠如。
※因みに、国連では箇条書きをする際に、(a), (b),から始まり、(i), (ii),次にa., b.,そして最後にi., ii.,という使われ方をします。
そして、理想的な文章は下記を達成することを指します。
- 目的と対象の読者を明確にし、その目的に対する必要な知識や意識を醸成する。
- 1つ以上の事前書き込み技術を使用して、レポートの概要を作成する。
- さまざまな種類の国連文書の標準フォーマットに従う。
- よく整理された一貫した文章と段落を書く。
- スペル、文法、スタイルの一般的な誤りを避ける。
- 正確で簡潔な要約を作成する。
- 行動指向の結論と勧告を提示する。
これら7つのことに関して、何回かに分けて解説していきたいと思います。
ここでは第一弾として、目的と対象の読者を明確にし、その目的に対する必要な知識や意識を醸成するためには何ができるかという点に関して書きたいと思います。
この記事での大きなポイント
この記事では下記に関しての情報をお届けします。
- 明確な主題と理由の明示
- 国連報告書の目的、なぜ目的が必要なのか
- 国連報告書の種類
- 目的をタイトルに記す(そのタイトル例、内部文書のタイトルキーワード)
- 読者の知りたい情報を自分に問いかける
レポート作成の第一歩、明確な主題と理由の明示
質問:
- なぜこのレポートを書いていますか?
- レポートの主題は何ですか?
- 誰がそれを読んでいますか?
作成したいレポートと主要な点と理由を明確にし、初めのイントロダクションで読者に伝えなければなりません。明示的に目的を明記していないと、あなたの読者の何人かは、それが何について書かれた文章であるか分かりません。もし、同じ重要度を持つ目的が複数ある場合は、並列にそして同等の価値を示すように述べてください。
場合によっては、レポートの目的がレポートの内容(件名)と非常によく似ている場合もあれば、目的の記述が主題とはかなり異なる場合もあります。もし、目的の記述と主題が異なる場合は、これらの2つの側面を分離して書くと良いでしょう。
例えば、リベリアの国連ミッション(UNMIL)の資金調達に関する事務総長の報告書の目的は、総会からの任務に対する資金を得ることにあります。レポートの主題、言い換えれば、その主な内容は、UNMILの活動の説明と、資金調達に必要な資金の見積もりです。あなたの紹介には、これらの両方の側面を含める必要があります。
例:
> The present report on the financing of the United Nations Mission in Liberia is submitted to the General Assembly at its fifty-ninth session for review and appropriation of the financial resources required for the functioning of the mission for the period July-December 2005. The report outlines the proposed activities to be carried out by the mission and indicates the estimated financial requirements.
最初に目的を述べることは、報告書の立法権限(総会や安全保障理事会の決議など)を示す上で不可欠なこともあり、読者が主題を迅速に把握するのに役立つでしょう。 レポートが特定の決議書に対応している場合は、決議書のコピーを作成し、主要ポイントを強調表示します。 あなたの主目的から逸脱していないことを確認してください。
国連報告書の目的、何故目的が必要なのか
レポートの目的を覚えておくために、1つまたは2つの文でコンピューター上に付箋等を貼りましょう。
目的を最初から定義することで、文章を方向づけ、読者はあなたがどこに行くのかを知ることができます。また、目的についての声明(または長いレポートや段落)を作成するプロセスが、あなた自身の心に目的を明確にするのに役立つことがあります。
ただし、明示的な目的の記述を必要としないタイプのものがあるかもしれないことに留意する必要があります。短く、直接的な内部コミュニケーション用のものがその傾向にあります。
国連報告書の目的は下記の通りです。
- 行動を勧告するか、または行動を呼び出すこと。
- ある地域または特定のグループの人々の状況について、読者に教育または通知すること。
- 論理的議論を通じて説得すること。
- 理論を提示し、証拠をで裏付けをすること。
- 手続きを記述すること。
- 前回の報告以来、どのような(時間・地理的な)進捗状況を示すこと。
- 公式記録用として、状況または事件の考察を提供すること。
国連の報告書の種類
質問:
どのようなレポートを書いていますか?
レポートを書くのは何故ですか?
誰が対象読者ですか?
さまざまな種類の国連報告書には、同様の目的になることがあります。 いくつかの例を以下に示します。
1.事務総長の実質的な研究報告の場合
対象読者:
報告書の所見を考慮して、決議や政策決定に投票する加盟国。 事務総長の報告は、総会、安全保障理事会、経済社会理事会などの特定の立法機関に提出される。
目的:
- 国連、加盟国および国際社会の要人の活動に関する情報の提供、または報告書が引き続き起きている事柄の一部である場合に、最新状況または所見についての読者に情報の更新をする。
- 結論を策定し、勧告する。
- 行動の過程に賛成すること。
2.部内レポートの場合
対象読者:
- 部長。
- 部署の管理者またはその他のスタッフ。
- 類似の問題に取り組む国連システム全体の同僚。
目的:
- 手順を説明する。
- 部署への関係のある研究の所見を報告する。
- プロジェクト、会議、またはその他の外部の任務に関するスタッフの作業を記述する。
3.ミッションレポートの場合
対象読者:
- 職員をミッションに派遣した部署。
- 国連の政策立案ユニット。
- ミッションに関係する作業を行う他の部署。
目的:
- 専門家以外の読者の場合は、状況や問題を整理し、研究結果を要約し、結論と通常勧告事項を提示する。
- 専門読者の場合、上記の目的と研究の詳細を提示すること。
4.その他の国連報告書
- 公開情報レポート。
- 技術報告書。
- 会議および専門家グループと作業部会の会合に関する報告。
- 機関間報告書。
- プロジェクト提案。
- 事故報告書。
- 規則と政策の適用に関する分析報告。
スタッフはファイルのメモ、長い文書や記事の要約、会議の要約記録、分析レポートや覚書、その他の連絡文書を書く必要があります。
目的をタイトルに示す
レポートのタイトルはすぐにあなたの読者にそのレポートの主題とその理由を明確に届ける必要があります。一般的な議題説明だと、読者はそれが何なのか自分で検索したり、推測することさえ強いられます。
良いタイトルの例として、「国連における説明責任を強化するための措置」が挙げられます。報告書が何なのか(説明責任を強化するための措置)、どのような状況で(国連で)それがわかるか。
対照的に、「人材育成」という短いタイトルはあまり明確ではありません。この報告書は人材育成に関することだというのはわかりますが、それは「どのような状況にあるのか」はわかりません。総会では国連事務局に関する問題の多くが議論されているので、国連でということだとは推測できますが。。。
実際にどのようなタイトルが付けられたか
実際に起こった例で述べると、報告書の要約に、「人材育成への包括的かつ部門横断的なアプローチを促進する必要性の概要を提供する」と「人材育成と国際的に合意された開発目標の実現との相互補完的関係を強調している」と書かれていましたが、
アジェンダ項目は、
「貧困の根絶とその他の開発課題:人材育成」と題されました。
このタイトルは、「貧困撲滅への人材育成の貢献」を読むために役立つことがわかります。
タイトルを作成する方法について疑問がある場合、最も簡単な解決策は、議題項目の言葉に従うことです。例えば、報告書のタイトルは「貧困の根絶:人材育成」と読むことができます。
内部文書の場合のキーワード
内部文書の場合、「推薦・勧告(Recommendation)」、「要求(Request)」、「提案(Proposal)」、「許可(Authorizatio)」などの言葉を使用すると、その目的を示すのに役立ちます。
例:
Request for temporary staff assistance
Project proposal: cultivation of roses instead of coca bush in Colombia
Recommendations for staff training in 2007
読者が読む際の疑問を自分自身に投げかける
文章を書き始める前に、何を含め、何を除外し、どうやって構成し、どのような論調・格調で書くのかを決める上で、基本的な質問をすることはとても重要です。
- 誰がそのレポートを要求したか
- 何の情報が要求されたか
- 新しい主題に対するレポートなのか、それともある一連のレポートの更新として書くものなのか
- 読者はどれぐらいの背景情報を知っている必要があるのか
まとめ
これらの情報は、基本中の基本ですが、愚直にその基本に沿って書く意識を持つ必要があります。
要約すると、
「簡潔で、明瞭で、シンプルで、論理的でありながら、
その報告書の目的をコンテキストも含めて何が書かれているか明示し、
どの読者が読んでも混乱しないように記す。」
ということになるかと思います。報告書を書く際に、複雑であればあるほどシンプルに書くことは難しいかと思います。色んな情報を漏れなく伝えようとしてしまうがために、とても読みづらい内容になってしまいがちです。まずは、主題をタイトルと、イントロダクションで明確に記し、読者が入りやすいようにすることが重要ですね。
次回は、事前書き込み技術(Pre-Writing Skill)と国連文章の標準フォーマットに関して書きたいと思います。
以上、「国連報告書の書き方:誰に何の目的で書くか」でした。